9話「崩壊する理想」


  シナリオデモ ハガネ ブリーフィングルーム
ラーダ「……先程、バルトールに 封入されていた人物の身元が判明したわ」
ラーダ「名前はジジ・ルー…… ウォン重工業のエンジニアで、 ゲシュタルトの開発スタッフよ」
ブリット「じゃあ、やっぱりあの時の……」
アヤ「会ったことがあるの?」
ブリット「ええ、アビアノで」
ギリアム「……諸君らも知っての通り、 ODEシステムは人間を生体コアとし、稼動している」
リュウセイ「そのODEシステムってのは、 いったい何なんスか?」
ブリット「ミロンガや バルトールの異常なまでの性能は、 そのシステムによるものなんですか?」
ギリアム「その通りだ。ODEシステムは かつてEOTI機関で研究されていた機動兵器の ネットワーク・システムを出発点とする」
テツヤ「EOTI機関…… では、今回のテロはDCとも何らかの関係が?」
ギリアム「いや…… DCでのODEシステムの開発は、 計画半ばで中止されている」
ギリアム「この件については、 レーツェルから確認を取った」
ヴィレッタ「では、DC以外の何者かが、 ODEシステムを独自に完成させたのね」
ギリアム「ああ。 そして、インスペクター事件後、 あれをウォン重工業にもたらした者がいる」
  電子音
ユルゲン「………」
エクセレン「あらん? 思ってたより人の良さそうなオジサマじゃなぁい?」
ギリアム「ヴィルヘルム・V・ユルゲン博士。 かつてEOTI機関……そして、DCに所属し、 ODEシステムを開発した人間だ」
ブリット「この男が全ての元凶か……!」
ギリアム「一概に決め付けは出来ない。 何故なら、ODEシステム開発の初期段階では、 生体コアなどという概念はなかったからな」
リュウセイ「え……?」
リョウト「ギリアム少佐、 ODEシステムについて、もう少し詳しく 教えていただけませんか?」
ギリアム「うむ。ODEシステム…… オムニ・デンドロ・エンセンファロ・システム。 その出発点は……」
ギリアム「AMNシステム…… アーマードモジュール・ネットワーク・システムだ」
ギリアム「これは1機のアーマードモジュールが得た 戦闘データを迅速かつ正確に他機へ伝達し、 さらに複数間の機体で共有するシステムだ」
ギリアム「ODEシステムは、 それをさらに発展させたもので、データの 更新・最適化に要する時間が大幅に短縮され……」
ギリアム「念動力などの特殊能力者や、 強化措置を施されたパイロットでなくとも 無人機の同時複数遠隔操作が可能となる」
エクセレン「よく舌を噛まないものねえ、少佐。 要約すると……勝手に学んで強くなるお人形ちゃんを いっぺんに操れるってこと?」
キョウスケ「なるほど、晴海で交戦した時、 こちらの手の内を読まれているように感じたが…… 学習されていたということか」
ギリアム「しかも、 入手したデータは、別の戦域で行動している 機体にまでほぼリアルタイムで伝達される」
ライ「ECCMなどで、 ネットワークをかく乱できそうなものですが……」
ギリアム「EAに対するEP策は、 様々なパターンで用意されているらしい」
イルム「ODEシステムがそんなに優秀なら、 人間を機体に乗せる必要なんてないでしょうに」
ギリアム「そう。本来のODEシステムは、 最小限の人員で多数の無人機を 制御するためのもの……」
ギリアム「つまり、人的被害を抑えるための 極めて効率的、かつ人道的な見地に立った システムだったそうだ」
リョウト「でも、 テロで使われたバルトールには……」
ギリアム「ああ、 “人と言う部品”が組み込まれている」
ギリアム「コアとなった人間は生きてはいるが、 思考・感情が奪われた状態にあり、 自律的な生物とは言えない」
アヤ「つまり……死んでいるも同然だと……」
ギリアム「システムから開放されない限りはな。 そして、いずれは消耗品として破棄、 交換されるだろう」
リュウセイ「それじゃ、 最初の目的とは正反対じゃないッスか!」
ギリアム「それこそが、 ODEシステムの抱える矛盾だったのかも知れん」
ライ「矛盾?」
ギリアム「AMNシステム、並びにODEシステムは マン・マシン・インターフェイスの追求により パイロットと機体のリンクを行うが……」
ギリアム「その際におけるパイロットの脳への負担が、 最大の問題点となっていたらしい」
ラーダ「事実、DCではODEシステム搭載機の 暴走事故が発生したそうよ」
テツヤ「それがプロジェクト中止の理由か」
アヤ「問題が多かったんですね……」
ギリアム「……バルトールとODEシステムの スペックについては、その全てが連邦軍側に 伝えられているわけではなかった」
ギリアム「おそらく、 次期主力機トライアルの責任者であった マウロ・ガット准将も……」
ギリアム「ODEシステムの最終的な仕様や、 今回のバルトール襲撃に関しては、 知らなかったと思われる」
ライ「我々は欺かれていたというわけですね…… ユルゲンやウォン重工業に」
ギリアム「ああ。そして、ODEシステムは 生体コアを導入すると言う矛盾に踏み込むことで、 新たな段階へ進もうとしているのかも知れん」
ライ「………」
リュウセイ「だけど、 人間をあんな風にしちまう量産機なんて……!」
ギリアム「生体コアは軍人…… 機動兵器のパイロットでなくても構わんようだ」
リュウセイ「!」
ギリアム「伊豆基地での戦闘で 撃墜されたバルトールの内部には ウォン重工業の一般社員……」
ギリアム「つまり、民間人が封入されていた」
ブリット「そ、そんな! じゃあ、自分達が撃墜したバルトールの中にも……」
ギリアム「いや。全てのバルトールに 生体コアが設置されているわけではなさそうだ」
ギリアム「現に、伊豆では3機のバルトールが 撃墜されたが、内2機は純然たる無人機だった」
イルム「解せないね、どうも。 生体コアにするんだったら、民間人より 軍人の方がいいのでは?」
ギリアム「バルトールは、 軍事的知識や技術のみならず、様々なデータを 集めようとしているのかも知れん」
エクセレン「様々なデータねえ。 ……恋愛遍歴とか、スリーサイズとかも 筒抜けってことかしら?」
キョウスケ「データの意味が違う」
テツヤ「無作為に人間を拉致し、 使えるデータを選別するつもりなのか?」
イルム「それじゃ、効率が悪い。 人間の拉致そのものが目的なら、軍事基地より 民間施設を襲った方がいいのはわかりますが……」
イルム「そもそも民間人のデータを集めて、 何をしようってんですかね?」
ギリアム「それは……まだ不明だ」
ギリアム「しかし、確実なのは…… 拉致された人間は、遅かれ早かれバルトールの 生体コアにされる可能性が高いということだ」
ブリット「……!」
   開閉音
カイ「艦長、ギリアム。 大阪の連邦大学がバルトールに襲撃されたぞ」
テツヤ「!」
ギリアム「また人間が拉致されたのですか?」
カイ「ああ……。 バルトールは友軍の追撃を振り払い、 逃亡したそうだ」
ギリアム「連邦大学と言えば、 極東地区でも五指に入る優秀な大学…… 効率を上げにかかったか?」
カイ「他にも、バルトールの襲撃を受けた基地や 民間施設がいくつかある」
アヤ「………」
リュウセイ「あいつら、いったいどこから来て、 どこへ消えやがるんだ……!?」
ギリアム「可能性が高いのは、 中国・大連地区にあるウォン重工業の本社……」
ブリット「では、拉致された人達…… クスハ達もそこに?」
ギリアム「それを調べるためにも、 手掛かりを得るためにも…… 艦長、ハガネを大連へ向かわせてくれ」
テツヤ「了解です。 直ちにケネス少将へ上申します」
テツヤ「なお、パイロット各員は いつでも出撃できるようにしておいてくれ。 どこでバルトールと接触するかわからんからな」
ヴィレッタ「了解」
ブリット(待っていてくれ、みんな……。 俺たちがすぐに行く)
リュウセイ(ラトゥーニ、アラド、ゼオラ、 ラミア少尉、クスハ……無事でいてくれよ……!)


  ハガネ ブリッジ 前略
ケネス「それと、ギリアム・イェーガーに 余計な真似をするなと伝えろ。 奴の最近の行動は目に余る」
テツヤ「……では、これより本艦は大連へ急行します」
ケネス「こんな時のために貴様らがいるのだ。 工場は徹底的に破壊しろ。以上だ」
テツヤ「………」
ギリアム「フッ……俺も随分と嫌われたものだな」
テツヤ「ギリアム少佐……」
ギリアム「気にする必要はない。 俺は彼の直属の部下ではないからな」
テツヤ「わかりました。 ……それにしても、工場を破壊とは……」
エイタ「司令もトライアルには一枚噛んでたんでしょ。 証拠隠滅って奴ですかねぇ」
ギリアム「そこまで 深く関わっているわけではないようだが……」
ギリアム「自分の管轄下で起きた事件だ。 立場的に不利となるものは消去しておきたいのだろう」
ギリアム(下手をすれば、マウロ准将のように 自分も消されかねないからな……)
テツヤ「では、少佐。 これより本艦は大連へ向かいます」
ギリアム「了解した。 ……それから、先程テスラ研のタカクラチーフから 連絡があった」
ギリアム「彼女は、マサキやリューネと共に ウォン重工業の本社へ向かっているらしい」
テツヤ「わかりました。 エイタ、総員に伝えろ。 第2種戦闘配置、これより本艦は大連へ急行する」
エイタ「了解!」


  ハガネ出現 前略
リオ「ラミアさんやアラド達は ここにいるの……!?」
ライ「いや、彼らのPBS反応はない。 それに、バルトールや施設内から 生体反応が検出されていない」
リオ「じゃ、じゃあ……!」
ライ「拉致された人々は、 別の所にいるようだ」
ギリアム「ここにいる連中の目的は…… 我々のような存在を誘き寄せること だったのかも知れんな」
テツヤ「だが、 何らかの手掛かりはあるはず。 各機、攻撃を開始せよ!」
   (中略)
エイタ「艦長! 工場の地下部ジェネレーターらしき物から 異常熱量反応が!」
テツヤ「何っ!?」
エイタ「このままでは、 ジェネレーターが爆発する 恐れがあります!」
テツヤ「くっ! 証拠隠滅を図る気か!?」
ギリアム「どのみち、 データ類は消されているだろうが……」
ギリアム「工場内に爆発物が 設置されていれば、この辺り一帯が 吹き飛ぶかも知れん」
テツヤ「エイタ、臨界点突破までの 時間を予測しろ!」
エイタ「了解!」
セルシア「カイル、あなたは…… 自分の味方を巻き込んでまで……!?」
カイル「目的を果たすためなら、 何だってやってやるさ」
カイル「犠牲が生じることに罪悪感はない。 ユルゲン博士の計画が成就すれば……」
カイル「そんな感情など、 必要なくなるのだからな」
セルシア「えっ!?」
リョウト「どういうことなんだ……!?」
ギリアム「………」
マサキ「………」
   (中略)
エイタ「計算の結果が出ました! 臨界点突破まで、あと3分です!」
ギリアム「どうする、艦長?」
テツヤ「ここであのバルトールを 食い止めなければ、被害が さらに広がることになる……!」
テツヤ「各機、 あと3分で出来うる限りの 敵機を落とせ!」


  エンドデモ ハガネ ブリッジ
ジョナサン「危ないところだったな、少佐」
テツヤ「ええ。 まさか、あのような手を使ってくるとは……」
テツヤ「あれはカイル・ビーン……いえ、ユルゲン博士の 意思によるものだったのでしょうか?」
ギリアム「そう見て間違いないだろうな」
ジョナサン「私はユルゲン博士と面識はないが、 彼について調べてみた所……」
ジョナサン「EOTI機関へ入る前は、 ドイツの連邦大学で教鞭を執っていて…… 学生達から慕われていた温厚な人物だったようだ」
テツヤ「DC戦争後の彼の動向は?」
ギリアム「それについては、現在調査中だ」
ジョナサン「私の方でも引き続き調べておくよ」
   (中略)
フィリオ「心配しなくてもいい、タカクラチーフ。 自分のことは自分が一番わかっているから」
フィリオ「それに僕はどうしても知りたいんだ。 ユルゲン博士の心を……」
ギリアム「心?」
フィリオ「ええ。 ……僕はDCでアーマードモジュールの 開発に携わっていました」
フィリオ「結果として、僕の研究は DC戦争を激化させた要因の一つと言えます」
ツグミ「フィリオ……。 それは……あなたの責任ではないわ」
フィリオ「ありがとう、ツグミ。 でも、僕は自分のやったことを 自分なりのやり方で償いたいと思っている……」
フィリオ「そして、誰かが 僕と同じような過ちを犯そうとするなら それを止めたいんだ」
ギリアム「ユルゲン博士と ODEシステムもそうだと……?」
フィリオ「ええ。 艦長……僕もハガネと同行を希望します。 少しくらいはお役に立てると思います」
テツヤ「それはこちらとしてもありがたい話ですが、 我々は次の行動の目処が立っていない状態でして」
フィリオ「それでしたら、 もうすぐセルシアのデータ解析が終了します。 これで何らかの手がかりが得られるでしょう」
エイタ「艦長、インテリジェンス・センターの セルシアさんから解析結果が送られてきました」
テツヤ「よし、こちらへ回してくれ」
ツグミ「これは……宇宙プラント……!?」
イルム「こいつは…… 何というか、お仕置きされそうな形だねぇ」
ギリアム「あれはスカルヘッド……」
テツヤ「ご存じなんですか、少佐?」
ギリアム「ああ。 先の大戦でインスペクターが使用していたものだ」
ギリアム「その後、 イスルギ重工とウォン重工業によって、 修復作業が進められていたという……」
テツヤ「何ですって……!?」
イルム「嫌なつながり方だな……。 少佐、スカルヘッドの位置はわかるんですか?」
ギリアム「不明だ。 だから、気になって私の方で 調査を進めていたのだが……」
ギリアム「今の所、手掛かりはないに等しい。 ステルスシェードの類が展開されているのかも知れん」
テツヤ「エイタ、セルシアは何と言っている?」
エイタ「入手できたのは 『ヘルゲート』の画像ぐらいで、 所在位置に関するデータはなかったそうです」
テツヤ「ヘルゲート?」
エイタ「テロリスト側が スカルヘッドにつけた名前だとのことです」
フィリオ「ヘルゲート……地獄門か……」
ジョナサン「物騒な名前だねえ、どうも」
フィリオ「どうやら、ヘルゲートが 敵の本拠地であり……ODEシステムの マスターコアの所在地のようですね」
ジョナサン「そして、 拉致された人々もそこにいる可能性が高い」
イルム「とりあえず、目標は定まったか」
ツグミ「ですが…… もし、ステルスシェードが展開されているとしたら、 目視で位置を調べるしかないのでは……?」
イルム「ご、ご冗談を」
ギリアム「スカルヘッド…… いや、ヘルゲートでもバルトールが 生産されていると思われる」
ギリアム「陽動をかけられるのを覚悟の上で、 バルトールの動きから位置を割り出すのが 今の所ベストな方法だろう」
テツヤ「そうですね」
ギリアム「今回得た情報は、 俺の方から統合参謀本部へ報告する」
ギリアム「もはや、俺達や極東方面軍だけでは 対処不可能な状態となっているからな」
テツヤ「わかりました。 こちらの方は命令があり次第、 すぐに動けるようにしておきます」
ギリアム「俺はいったん別行動を取る。 ヘルゲートの情報や、それに関連する事柄を 調べるためにな」
テツヤ「了解です」
ギリアム「では…… 新たな情報が入り次第、連絡する」



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